ホームゲーム 2

第1セット。
GSS8-5大野。
GSS16-15大野。
リードは奪っていても、徐々に追い上げられ、嫌なムードもあったけれど、
GSSは、このセットを25-21で逃げ切った。
「初めて、セットを取るところを見た」
そんな嬉しそうな声が聞こえた。
この試合で、自分が一番驚いたのは、GSSのレフト、長岡選手の活躍だった。
帳票を見れば、46打数の21得点。
45.7%の決定率は素晴らしい。

日本女子体育大学、通称日女の現4年生。
前キャプテン。
長岡選手には、思い出がある。
長岡選手が2年生の秋。
東海が1部復帰して、優勝した秋リーグ。
その秋リーグは10チームが参加し、下位2チームは自動降格となる過酷な条件化のリーグ戦だった。
日女は、0勝14敗。
1勝もできずに最下位となって、2部に落ちた。
長岡選手は、とても期待されている選手だと思った。
だからプレッシャーも大きかったのではないかと思う。
忘れられないのは、淵野辺の体育館でのことだ。
試合の合間に、パンを食べようと思って、踊り場に出たら試合に敗れた日女の選手が、床の上に体育座りで顔を埋めて泣いていた。
それを周りの選手がなぐさめていた。励ましているようにも、支えているようにも見えた。
パンを食べ終えて、戻ってきた時も、同じようにしていた。
泣いていたのは、長岡選手だった。
長岡選手は、涙とともに心に残っていた選手だった。

第2セット。
大野が序盤からリードし、中盤にかけて4点〜5点差。
その差が縮まらない。
連続得点するには、サーブとブロックが重要と思うが、GSSは、その二つは弱いと思う。
それでも、全員がよくボールを繋げていたと思う。
特に、リベロの岡崎選手。
岡崎選手が流れたボールを全力で追い、ネットにぶつかりながらもボールを上げる。
この2日間の岡崎選手を見て、東海大学時代の彼女の溌剌としたプレーを思い出していた。
変わらない勇姿が嬉しく思えた。
縮まらなかった差が、終わってみれば23-25の最小得点差。
後から、あのセットを取れば。そうも思えたが、逆に言えば、2点差まで縮めた。この日のGSSは何かが違っていた。

第3セット。
このセットは、大きく点差を広げられた。
それでも、遠藤選手→菊池選手、山下選手の完璧なコンビも見れた。
思わず、
「完璧」
「満点」
そんな言葉を発していた。
途中、前日はリベロの控え登録だった東京女子体育大学、通称東女(とんじょ)の見崎選手も活躍した。
また、大場選手も地味だけど、いい仕事をしていた。

そして、迎えた第4セット。
この第4セットは、深く心に「残る」特別なセットとなった。
最大4点リードから、
終盤に1点差まで追い上げられた。
「いつもの」GSSであれば、ここで追いつかれ、あっという間に離されていたのではないかと思う。
この苦しい場面で、
GSSのキャプテン。山下みなみ選手。
天からバレーの神様が降りてきて、山下みなみ選手に宿った。
そんな風にさえ思える神がかりな活躍を山下選手が見せる。
ブロック2本。スパイク2本。
全て1枚ブロック。1本の攻撃で決めた。
山下みなみ選手の4連続得点。

2007年。
思い出す。
東海が勝てなかった頃。
春リーグで、足を引きずっていた。
「あれ、尋常の怪我じゃないですよ」
羊青年がそう言った。それほど重く見えた。
怪我で出場できない山下選手はスタンドで声を枯らして応援していた。
旗を振って応援していた時もあった。
けれど、勝利の女神は微笑んでくれなかった。
毎試合ごとのように、試合後に泣いている姿を見た。
日女との入れ替え戦では、スタンドからユニを着て応援をした。
でも、勝てなかった。
やはり泣いていた。
OGの方が慰めていた。
「自分を責めてはいけない」
そう言っているようだった。
秋。再び入れ替え戦
山下選手は、コートに戻っていた。
今度は、コートの中で戦った。
勝って、1部に戻って後輩にバトンを渡したかっただろうと思う。
懸命に戦った。頑張った。
でも、勝てなかった。
また涙だった。

その山下選手の活躍が大きく、第4セットを取った。
体育館内のムードは、いつもの体育館の空気とは違っていたように感じた。
全てではないが、多くの人が。
「勝ってほしい」
そう願っていたように思う。
GSSの選手の頑張りは、もちろんだけれど、GSSに勝利を。
そう願う人の心も、またGSSを後押ししていたと思う。
まさに ホームゲームだった。

それでも。
大野石油の選手も、また苦しい中で歯をくいしばって耐えた。
第5セット。
点差が広がり厳しい中、
「はるか、がんばれ」
そのスタンドの声にエースの須江はるか選手が大きく頷いた。
須江はるか選手は、応援するものの思いを載せてくれる選手だと思う。
そのスパイクの力強さは、心に響く。

GSS8-15大野石油。
16敗目。
それでも、この日のGSSのホームゲームは、しっかり心に「残った」

試合後のイベント。
全員に声を掛けたいと思ったけれど、試合後にユニのままの選手を長い時間引き止めるのも、なんだか申し訳なく思うし、
せめて東海出身の3人には、声を掛けたいと思った。
階段を降りていったら、
長岡選手がいた。
たまたま、一人しか並んでいなかったから、声をかけた。
大学バレーのファンでもあることを話して、
淵野辺で、心に残っていました」
そんな話をしたら、驚いた顔をして、
「いつ頃のことですか?」
「全敗したリーグ戦です」
そう言ったら、すぐにわかったようでした。
「泣いてらして、心の中で、がんばれってエールを送っていました」
にこりと笑ってくれました。

東海出身の菊池選手(カホ)に声を掛けました。
「いやあ。特にないんだけどさ」
って言ったら、ちょっと、ガクッて。
「頑張ったねえ。感動した」
そう言ったら、なんか笑った。
カホさんの独特の「間」が健在で安心した。

岡崎選手(ツクシ)とも話せた。
「なかなか来なくて、どうしたのかなと思ってました」
というので、
「いろいろ あって」
みたいなこと言ったら、
「これ?(手でお金のマーク)ですか?」
「そう」
笑った。
からっとした、ツクシさんも、やっぱり変わっていない。

山下選手(エル)さんにも声をかけれた。
「第4セット、何かが降りて来たねえ」
笑った。
「もう少しで、泣けそうだったよ」
「泣いていただきたかったです」
「今度は、泣かせてくれよ」
笑った。

試合後、見崎選手が感極まったような顔をしたように思えたけれど。
やっぱり、涙はなかったように思いました。
けど。
なんか、こういうのも「アリ」だな。
そう思いました。
エルさんの悔し涙は、たくさん見てきたもの。
もういいよ。
今度は、勝って嬉し涙を流してください。
楽しみにしています。

試合後。
この試合について語りたくなった。
そう思った人は、多かったと思う。
そして、本当にできることなら次週も応援に行きたいと思った。
そう思ったのは、自分だけではなく。
今回のGSSのホームゲームは、多くの人の心に「残った」