ユキさんが思い出させてくれたこと

pigroboshow2006-05-25

いつ以来かな?初めてかな?
東レ・アローズ東海大学の試合のあと,僕はでまちには行きませんでした。
アローズバスを見送らないのは,僕にはとっては珍しいことでした。
その日,Eコートで健祥会三洋電機大阪との試合があるからでした。
Eコートは,大阪府立体育館の地下にあります。サブアリーナというのでしょうか。階段を下りていった先のこぢんまりとしたコート。
僕は,このEコートは小さいけれど,集中して見れるし,監督さんの指示やベンチの声なども聞けて けっこう好きなんです。

階段を下りながら,
健祥会三洋電機大阪との試合は,V1リーグの成績を見ると,三洋電機大阪が有利だし,ユキさんの応援も勿論,アローズが1位通過するためにも,健祥会に粘ってほしいなあ。
応援しなきゃなあ。
そう思っていました。
ですから,ユキさんの応援&アローズの1位通過のためという気持ちもあったんです。
ところが……
試合が始まったら,ユキさんワールド全開で。
スパイクを決めて走り回る笑顔のユキさん。健祥会がⅤ1リーグの成績とは関係なく,堂々渡りあう展開に。
おもいっきしコートで自分自身のパフォーマンスを発揮しているユキさんを見ていたら,次第に視界がぼやけてきてしまいました。
戻ってきてくれて,本当に良かったなあ。今,目の前で必死にボールに喰らいついているユキさんを見ていたら,最初は健祥会に粘ってほしいという気持ちだったのに,いつしか
健祥会!勝て!」
そんな強い気持ちに変化してきて,アローズの1位通過とか,順位は全く考えず,純粋に健祥会,ユキさんを応援していました。
そして……第2セット。
もつれにもつれて,試合はジュースに。
そして健祥会がセットポイント。セットを取るチャンスを迎えます。
この時の得点をはっきり覚えていないのが情けないのですが。あと1点まで追い詰めました。その時……
僕にとっては とても心に残るシーンがありました。
あと1点。ラリーが続き,その時,ユキさんに2段トスが上がりました。
「ユキさん,決めて!」
心で願ったその瞬間。思いっきり跳躍したユキさんが力いっぱいのスパイクを。でも,それは三洋電機大阪のブロックに真っ向からつかまり健祥会コートに落ちました。
「ああ……」
健祥会を応援する人たちのため息と,三洋電機大阪を応援する人たちとの歓声の中。
その時。ユキさんを見ました。
力いっぱいのスパイクを打った直後にコートに座り込んでいたユキさんがスくっと立ち上がって,くやしーという表情で。でも すぐに笑顔で。コートの中のみんなに大きな掛け声を。声がはっきり聞こえたわけではありません。それでも,ユキさんから,「次は必ずきめてやる」そんな心が伝わってきたように思いました。
その時,ずどんと胸の中によみがえってきた想いがありました。
ユキさんの姿を見ていて,思い出したこと。思い出した人。
それはワールドカップの加奈さんでした。
あの時,加奈さんは世界を相手にして,時にどシャットにあう場面もありました。
それでも,加奈さんは逃げの素振りは見せなかったように思います。
おもいっきし笑顔で,次は決めてやるという強い気持ちがコートから伝わってきたように思います。誰よりも走り回って,誰よりも大きな声でコートの中で戦っていたように思います。
類稀なる素質,才能があって10年に一人の逸材という呼ばれ方をされていました。
でも,自分は加奈さんを見ていて,その凛とした「心」に引き込まれていったように思います。けして怯むことなく臆することなく。試合終了までけして諦めない。1度や2度,上手くいかなくったって,けして下を向かない。全力を尽くす。
あの時のユキさんの姿には加奈さんと重ね合わさる部分が多かったように思います。
試合は,惜しくもストレートで三洋電機大阪に敗れてはしまいましたが,敗れてなお心の中に残る大切なものを健祥会,ユキさんは思い出させてくれたように思いました。