はじまりのとき

土曜日。
デンソーとの試合に勝利して、サマーリーグ決勝トーナメントに出場決定。



試合後の挨拶を終えた。
整列していたクウさんが観客席に向かって、大きく手を振った。
誰に手を振っているのだろう。
手を振っている先を見た。
ああ。
思わず笑顔になった。
柏のキエさんのご両親だった。
どちらも、大きく手を振っていた。





スタンドの近くで、応援されていたある方に話しかけた。
その方は、2008〜2011の東海の4年間を、よく知っているご婦人だった。
「なんだか、懐かしいですね」
そう、おっしゃいました。
その方に、伝えたい言葉がありました。
「クウさん……。シンさんがいてくれて」
そこまで言って、言葉に詰まってしまいました。
そんな私を助けるように、にっこり笑われて、気持ちを代弁してくださいました。
「のびのびとしていますよね」




クウさんが移籍して、初めての大会。
心配もありました。
けれど、初日からクウさんのプレーは良かった。
なによりも。
クウさんが「のびのびとしていた」それが、嬉しかった。


この2年間、プレッシャーや試合に出れずに苦しんでいたクウさんを見てきて、
この3日間のクウさんは涙が出るぐらい良かった。
その良かったは、プレーが良かったというのと、クウさんがNECに溶け込んでいるのと、周りのファンの方々もあたたかくて、ほっとしたという意味合いの良かった。


デンソーとの試合の時に、後ろでデンソーを応援している方が、こう言った。
「山口、NECに移籍して良かったね」
思わず、ぐっときた。
後ろを振り返って、手を握って「ありがとう」と言いたいぐらい嬉しかった。



この3日間は、コートの中のクウさんを見ているのが楽しかった。
サマーリーグはクウさんをずっと見ていたかった。



クウさんを、この3日間見てきて。
奇跡があってほしいと思いました。
できれば、同意書が出ていてほしいと切に思いました。