ばあちゃん

pigroboshow2008-10-08

その人はベッドの上で静かに目を閉じていました。
私は、ある日本の北の方の島で産まれました。
ちょっとしたことがあって、まだ小さかった私の面倒は、その人がみてくれていました。
その人は、海の近くで魚の干物を作る仕事をしていました。
小さな背中に小さな私をおんぶして、毎日、仕事場に出かけていました。
同じ年代のご婦人たちの集まりでしたから、みんなとても可愛がってくれていたそうです。

私の父親は、私の親戚でよく言う人はいませんでした。
だけど、その人は、こう言いました。
「みんな悪く言うけど、私は、おめえとこの父さんは好きだった」
父親は、事故を起こす前まではトラックの運転手をしていて、その人をいろんなところに乗せて行ってくれたそうです。高い運転席〜トラックのドライブはとても楽しかったそうです。それと、
「3人の娘が、みんな嫁に行ったけど、私のことを、『かあさん』って呼んでくれたのは、おめえとこの父さんだけだった。それが、何するにも、『かあさん』、『かあさん』って、悪気無く言ってくれて、私は、おめえとこの父さんは憎めなかった」

妹が結婚する前の日に、その人は我が家に泊まりました。最後の一家団欒の時に、急に妹が泣き出してしまいました。しーんとなった食卓で、その人は妹の背中をさすりながら歌を歌ってくれました。曲名もわからず、今となっては歌詞のひとつも思い出せないけれど、その人が歌ってくれた歌のおかげで、最後の夜に、妹も、私も、家族みんなが同じ思いになれたような素適な想い出となりました。

その人はベッドの上で静かに目を閉じていました。
「寝ているんですか」
看護婦さんは首を振りました。
「もうまぶたを開ける力も残ってないのよ」
「ばあちゃん。きたよ」
そう耳元でささやいたら、目に涙が滲んでいました。
この人の「生きる力」は、本当にすごい。
看護婦さんは、帰り際にそう言っていました。